2020年5月 4日【記事更新:2020年12月29日】
本記事の要旨
●パチンコ店の店舗数は、遊技人口の減少に伴う市場規模の縮小が続いていることから、ここ10年では年平均300店が減少してきた。
●2020年は、先のコロナ禍による全国的長期休業が引き金となり、本来ならば数年先に起こるであろう店舗の倒産・閉店までもが前倒しで発生していると思われ、パチンコ閉店ラッシュとも捉えられる。
●2020年の全国パチンコ店売上高は前年に比べ2割以上の(26.6%)減少が予想され、パチンコ店には1,800店前後の閉店圧力がのしかかっていると危惧される。
●実際には、融資や(新台入替費用等の)経費支出の猶予等による救済措置の効果もあり、2020年は前年比700店ほどのパチンコ店減少に止まりそうであるが、今後も売上の急激な回復は考えにくく、いかに経営を維持していけるかはこれからが正念場である。
1.景気停滞・規制強化の中での遊技人口減少
ここ10数年のパチンコ・パチスロを取り巻く国内経済環境をみると、2004年の遊技機規則改正の影響が冷めやらぬ中、リーマンショック(2008年)、東日本大震災(2011年)といった大事件が経済に影を落とし、消費税5%からの増税(→2014年8%→2019年10%)がそれに追い打ちをかける形となりました。
この間、パチンコ店の集客イベントが事実上開催できなくなるなど広告規制が年々厳しさを増し、また、遊技機は高射幸性から低射幸性へ出玉を規制される流れが続いています。
こうした状況下、2019年のパチンコ遊技人口(参加人口)は890万人(レジャー白書2020)と、2009年の1,720万人から10年で半数近くにまで減少しています。
2.市場規模が縮小する中でのパチンコ店減少
パチンコの市場規模をみると、2019年は20兆円と2009年の28兆2,420億円から10年で約3割縮小しています(表1)。
こうした厳しい環境が続いたことから、パチンコ店の店舗数(営業許可数)は2019年に9,639店と2009年の12,652店から10年で約2割減少しました。
これは、市場規模が27億円縮小すると、パチンコ店1店が閉店に追い込まれる計算になります。
市場規模の直近のピークは2005年で34兆8,620億円です。ここから2019年の20兆円まで年平均4%程度で縮小しています。
このままの傾向が続くと、2030年の市場規模は12兆6千億円にまで落ち込むと推計されます(表3)。
同様の計算で2020年の市場規模は19兆円となりましたので、今後10年では差し引き6兆4千億円の縮小分に見合うだけの店舗に閉店圧力がかかることとなります(19兆円-12兆6千億円=6兆4千億円)。
先述したとおり市場規模27億円の縮小で1店舗減少すると、6兆4千億円では約2,400店近くが減少する計算になります(6兆4千億円÷27億円=2,370店)。
このため、今から10年後の2030年の店舗数は約7千店と推計されます(9,639店-2,370店=7,269店)。
3.コロナ禍が倒産・閉店ラッシュの引き金となった
全国パチンコ店の月別売上高は2019年7月以降、2020年10月まで16か月連続で前年割れが続いています(表2、経済産業省の特定サービス産業動態調査より)。
特に2020年5月はコロナ禍による全国的休業や営業再開後の客足の戻りが鈍く、前年を8割近くも下回りました。
こうした状況下、コロナ禍による全国的な休業が引き金となり倒産・閉店を余儀なくされた店舗が目立つようです。
本来ならば数年先に起こるであろう店舗の倒産・閉店までもが、かなり前倒しで発生していると思われます。
4. 2020年のパチンコ店売上高の伸び率(減少率)を推計
2019年7月から前年割れが続く全国パチンコ店売上高は2020年入り後も減少傾向で推移し、5月は前年比-77.5%の大幅な減少となりました(表2)。
その後は、徐々に客足が回復しているようですが、まだ前年の水準には達しておらず、回復は頭打ちとなっています。
以下の表2は今後の月別売上高の伸び率(減少率)を予測したものです。
特に高齢者の客足の戻りが鈍い事や今後の雇用・所得環境が悪化傾向にある事などを考慮すると、年内までに前年水準に回復するのは厳しいと思われます。
これにより、2020年のパチンコ店売上高は前年に比べ2割以上(26.6%)減少すると推計しました。
5. 今後のパチンコ市場規模を推計
前4項のとおり、2020年のパチンコ店売上高(貸玉料収入の粗利に相当)は前年に比べ2割以上(26.6%)減少すると予測しました。
これは、パチンコ市場規模(貸玉料収入に相当)も同様の割合で減少する事につながります。
以下の表3は、前2項で示したトレンドによる推計方法により今後の市場規模を予測したものです。
2020年は、2019年の市場規模の推計値20兆円から26.6%減少すると14兆7千億円となります。
これは、トレンド予測での6年先の2026年の水準(14兆9千億円)にまで一気に落ち込む事を意味します。
6.今後のパチンコ店の店舗数を推計【過去10年の平均から考えた場合】
パチンコ店の店舗数は、前2項で示したとおり、市場規模が27億円縮小するにつれ1店舗の割合で減少すると計算されます。ここ10年の平均では年間300店ほどが減少しています。
2030年には7,000店になると推計されるので、おおよそ表3のように推移すると仮定しました。
ここで、2020年の店舗数についてみてみます。
市場規模と同様、2026年の水準にまで落ち込むと仮定すると7,800店になります。
つまり、2019年の9,639店から1,800店余り減少すると推計されます。(9,639-7,800=1,839店)
これには、小規模店のみならずチェーン店グループによる不採算店舗の整理も含まれるでしょう。
店舗数の推移を遡ると、2004年の遊技規則改正の影響が色濃く表れた2007年の減少数1,089店を凌駕する規模となります。(2006年14,674店→2007年13,585店)
一方、全日本遊技事業協同組合連合会が発表した「組合員加盟店舗の実態調査」によると、2020年10月末の営業店舗数は8,338店で、昨年末の8,886店に比べ548店減っています。これは月平均55店ずつ減少している計算となります(548店÷10か月=54.8店)。
このまま年末まで同様のペースで減少すると仮定すると年間で660店(55店×12か月)が減少することとなります。
これは、昨年の営業店舗数(8,886店)の7.4%に相当します。
月末に営業していた店舗数であり一時的休業を含んでいないと思われるので単純に受け止める事はできませんが、閉店・廃業・倒産の指標にはなると思います。
さて、警察庁が発表しているパチンコ店の営業許可数に話を戻します。
2019年は9,639店ですが、これを基準に考えると7.4%は713店に相当します(9,639店×7.4%=713店)。
つまり、2020年は7百店余りのパチンコ店が減少すると推計されます。
これは、2019年の減少数421店と比べると1.7倍の大幅な減少です(2019年の営業許可数9,639店-2018年の営業許可数10,060店=-421店)。
7.パチンコ店の閉店・廃業・倒産の増加ペースは実はソフトランディングしつつあるのか
しかしながら、何も対策を打たなければ1,800店の減少圧力がかかっているところを7百店に抑えていると捉える事もできます。
このため、2020年の全国パチンコ店舗数は8,900店となると推計されます(表4)。
10年間のトレンド予測に当てはめると、2021年の水準(9,000店)に止まります。市場規模の縮小が2026年水準にまで落ち込むのに対して、店舗数は何とか持ちこたえているようです。
その要因として、コロナ禍対策としての以下の資金繰り面での効果が考えられます。
●政府系金融機関・信用保証協会による融資・保証の対象業種の見直しで新たにパチンコ店が対象となったり、民間金融機関において実質無利子・無担保融資が開始されるなど融資姿勢が緩和された。
●持続化給付金、雇用調整助成金、家賃支援給付金などの行政による支援体制が整えられた。
●本年中に撤去が求められていたパチンコ・パチスロ旧基準機の設置期限が延長され、実質的な新台入替費用の負担が先延ばしされている。
こうしたなかにあっても、2020年のパチンコ店の売上高は前年比2割以上の大幅減となりそうですので、店舗数の減少圧力は1,800店のまま変わりません。
今後、パチンコ店には、先延ばしされてきた旧基準機の撤去に伴う客足への影響や機械の入替費用の負担はのしかかってきます。
遊技客数や遊技時間が減少傾向にあるなかで売上の急激な回復は考えにくく、いかに経営を維持していけるかは、これからが正念場なのかもしれません。